産経新聞「一聞百見」インタビュー記事

【一聞百見】東京に災害「予言書」首都崩壊…原発事故の記録、残さねば
作家・高嶋哲夫さん 2019.11.1 16:00

 巨大災害のたびに議論がわき上がる東京から地方への首都・首都機能移転。このところ、下火にはなっているが、1冊の小説がいま、注目を集めている。巨大地震の発生が迫る東京からの首都移転先を岡山県の吉備高原とした『首都崩壊』。今夏、岡山では相次いで首都移転に関するシンポジウムが開催され、作者の高嶋哲夫さんが登壇した。さまざまな災害をシミュレートしたパニック小説、そして原発を扱った作品などを次々と発表してきた高嶋さん。創作の原動力を聞くと、その根底には、24年前の阪神大震災の実体験と原子力研究者としての思いがあった。
(聞き手 編集委員・上坂徹)
https://www.sankei.com/west/news/191101/wst1911010001-n1.html

 

■被災も経験、元原子力機構の研究員…危機回避に首都機能移転を

 神戸市垂水区。六甲山系のすそに広がる高台のマンション、南側の窓からは瀬戸内海側に延びる住宅地がのぞく。その先は24年前の阪神大震災を引き起こした野島断層につながる。高嶋さんは震災をこのマンションで経験した。6434人の死者、全半壊家屋は約25万棟にも上った震災。

 高嶋さんは「このあたりの地盤が強固だったのでしょう。マンションの外壁に亀裂が入った程度で済みました。少し離れたところでは、建物の倒壊や火事で多くの犠牲者を出していた。水道やガスなどのインフラは3カ月にわたってストップし、生活そのものには苦しみました。水は近くの井戸からくんできたものを使っていました」。

 震災前年の平成6(1994)年にアメリカを舞台に大統領周辺の陰謀を描いた『メルトダウン』で第1回小説現代推理新人賞を受賞。本格的な作家デビューを果たしていたが、作家活動に当たって、「震災を経験した作家として、なにか記録を残していかないと。それを義務のように感じました」。

 高嶋さんはその後、災害3部作と呼ばれる作品を次々と発表した。マグニチュード8の直下型地震が東京を襲う『M8』(平成16年)▽東海・東南海・南海の3つの地震が連動して、巨大な津波が日本列島の一部をのみ込む『TSUNAMI-津波』(同17年)▽巨大台風が東京を直撃、河川が氾濫して、市街地が水没する『ジェミニの方舟-東京大洪水』(同20年)。いずれも科学的知見と最新のデータを駆使して、極めてリアルなパニック小説に仕立て上げた。

 

 高嶋さんは「阪神大震災、東日本大震災とも被害は甚大でした。国家存亡の危機といえる災厄を乗り越えることができたのは、首都東京が無事だったからです。本当に怖いのは、政治・経済が集中している東京が被災地となることです。わが国の経済的な損失だけでなく、世界恐慌をもひき起こすことになる。その前に、首都を移転させておくべきなんです」。

 そんな思いもあって、平成26年に刊行したのが『首都崩壊』だった。

 〈東京直下型地震(マグニチュード8)が5年以内、90%以上の確率で発生することが地質学者の研究で判明。この事実が明らかになれば、日本経済の崩壊、世界恐慌の引き金になりかねない。危機の回避には首都移転しかない。国はプロジェクトチームを作り移転に動く。その移転先は岡山県の吉備高原だった〉

 


■注目集めた「予言書」

 「今後、首都直下型地震や南海トラフ巨大地震が起こると、東京も大きな被害を受ける。数百兆円レベルの経済損失は、世界恐慌を引き起こすことにもなる。また、日本はさまざまな問題を抱えている。少子高齢化、東京一極集中など。これらを解決するには、日本の形を変える必要がある」

 今年8月、吉備高原に位置する岡山県吉備中央町の主催で開かれた「首都移転を考えるフォーラム」。基調講演に立った作家の高嶋哲夫さんはこう主張した。

 高嶋さんは新首都の条件に、自然災害がない、もしくは少ない▽位置的に日本の中程で、交通の便がよい▽防衛しやすい▽首都建設用の土地がある▽人の心を引きつける-をあげる。吉備高原は自然災害に関して過去にほとんど例がない。平成29年の日本地質学会学術大会では、地下20キロまで硬い一枚岩盤からなり地盤が極めて安定しているとの発表がなされた。北方四島から尖閣諸島まで日本全体を見るとほぼ中央に位置し、高原地帯で水害の心配は少ない。空港、新幹線も使え、省庁の建設用地は十分ある-とする。

 首都機能移転については首相の諮問機関が平成11年の答申で、移転候補地を栃木・福島地域と岐阜・愛知地域、交通網整備の条件付きで三重・畿央地域の3カ所としたが、その後議論は盛り上がらなかった。23年の東日本大震災では東京も被害を受け、再び取り沙汰されるようになったが、その後、沈静化している。高嶋さんは「首都直下型が起これば東京崩壊となる。移転議論は進めなくてはならない。岡山県は“晴れの国”といわれるように天候が安定し、地震や水害などの危険がきわめて少ないことを考えると、吉備高原は候補地としてすばらしい」と話す。

 ただ、『首都崩壊』を書くに当たり、最初から移転候補地を岡山としたわけではない。高嶋さんは「書いている途中、どこに首都を持ってくるか、を考えた。出身地ということもあるが、岡山を首都候補とした場合、実に条件がよいことに気づいたんです」。

 高嶋さんは米カリフォルニア大に留学、帰国してから、小説を書き始めた。

 「研究に煮詰まったような状況になって。留学先で知り合った日本人研究者のすすめもあって、小説の世界に入っていったんです」

 キャリアを高嶋さんは小説に生かしてきた。東日本大震災の6年前に発表した『TSUNAMI』では、大地震で発生した津波が日本の太平洋岸を襲い、原発も直撃。冷却ポンプが停止してメルトダウン(炉心溶融)寸前まで行く。東日本大震災での原発事故を事前に描いたような内容で「予言書」だったのではないかと、震災後にも改めて注目を集めた。

 「原発で利用しているのは核分裂で、私の研究は正反対の核融合。分野は違いますが、原発のメカニズムは分かる。それを小説の中には生かしてきました」

 福島第一原発事故では、実際に現地を訪ねて調査した。多くの関係者からの聞き取りなどを基に、第一と同様にダメージを受けながら、冷温停止に成功してメルトダウンを防いだ福島第二原発を描いた『福島第二原発の奇跡』を出版した。「原子力に関係した者として、原発事故の記録は残していかなければと思っていました。阪神大震災では自ら被災した。そんな思いは創作の原動力にはなります」。高嶋さんはそう力を込める。

 

 

 【プロフィル】高嶋哲夫(たかしま・てつお) 昭和24年7月、岡山県玉野市生まれ。神戸市在住。慶應義塾大学工学部卒業、同大学院修士課程修了。日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)研究員を経て、カリフォルニア大学に留学。核融合研究で日本原子力学会技術賞受賞(昭和54年)。平成11年に『イントゥルーダー』で第16回サントリーミステリー大賞。他に『都庁爆破!』『メルトダウン』『乱神』『首都感染』『富士山噴火』『日本核武装』など多数。『ミッドナイト・イーグル』は19年に映画化。ノンフィクションも多く、『福島第二原発の奇跡』ではエネルギーフォーラム賞優秀賞。